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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)216号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第二号証によれば、本件特許出願公告公報には、本願発明の目的、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

本願発明は、光伝送用フアイバーケーブルに関するもので、特に光フアイバーが変形、切断しないように考慮すると共に、フアイバーケーブルの製造工程中にも外傷を受けない構造を考えたものである(第一欄第三一行ないし第三四行)。第2図(別紙第一図面参照)に示す実施例について説明すると、3はプラスチツク等よりなる線状物で、その外周には、外部に開口した空洞4が等間隔に設けてあり、かつ、この空洞4は線状物3の軸方向にスパイラル状に形成されている。この空洞4内に光フアイバー5が単数又は複数本収納されている。(第二欄第一一行ないし第一七行)。6は、この部分から光フアイバー5をそのスパイラルに添つて落とし込むための空洞4の開口部で、一般に狭いことが望ましい(第二欄第二二行ないし第二七行)。第3図(別紙第一図面参照)は空洞の断面形状の説明図であつて、4は第2図に示す実施例の空洞4と同一であり、ほぼ円形の断面形状でその一部が開口部となつている。8は開口部から中心方向に向かつて幅が広くなる三角形の断面形状の場合、9はU字状の断面形状で開口部の幅と同じ幅を有する場合、10は矩形の断面形状で開口部の幅と同じ幅を有する場合を示す(第二欄第二三行ないし第三五行)。線状物3には、軸方向に対して、所定のピツチでスパイラル状に空洞4が形成されている(第三欄第一〇行及び第一一行)。以上のように、本願発明のフアイバーケーブルは、光フアイバーが空洞内に入れられているため、フアイバーケーブルを曲げた場合、又は引張つた場合でも、直接光フアイバーに力が作用し難いので、光フアイバーが外傷を受けにくい利点があり、また、空洞部分は線状物の内部に存在するような形をとり、その空洞の断面形状は、第3図の4、8ないし10に示すように、空洞の断面における幅が開口部の幅と等しいか又は大きくなるように選定されており、その外部に向かう開口部は、少なくとも内部より広がらないような形状をとることもできるので、線状物が空洞のために軟弱化するおそれがない利点がある(第三欄第一七行ないし第四欄第一二行)。

以上のとおり認められ、これに反する証拠はない。

2 本願発明と第一引用例記載との一致点について

(一) 光伝送用フアイバーケーブルが、その内部を光が反射を繰り返しながら伝播する石英ガラス製の極細の繊維、すなわち光フアイバーを基本単位とし、これを複数本、適宜の線状支持体に担持させ、その周囲に保護用被覆を設けることによつて構成されるものであることは当事者間に争いがないところ、原告は、第一引用例記載のものはオプチカルストランド、すなわちフアイバーケーブルを構成するために用いられる光フアイバーの束であるのに、審決はこれをフアイバーケーブルそのものであると誤つて認定したと主張する。

しかし、成立に争いない甲第三号証によれば、第一引用例には、「各々が一つ宛の通信系路をつくり且つ夫々に富豊な数のオプチカルフアイバを含む(中略)「ストランド」」(第二頁右上欄第一一行ないし第一三行)、及び「中央の細長いプラスチツクフイラメントのまわりに配列されている複数個の細長いクラツド(合わされた)されたオプチカルフアイバを含み(中略)前記クラツドフアイバは(中略)前記配列されているフアイバと前記フイラメントとのまわりに延びるプラスチツクシースによつてフイラメントと確実に衝合する位置にあることを特徴とするオプチカルストランド」(第二頁左下欄第七行ないし第一六行)と記載されていることが認められるから、第一引用例記載のオプチカルストランドは、それ自体がフアイバーケーブルとしての構成を備えていることは明らかである。そしてこのことは、成立に争いない乙第一号証によれば、本件出願後の刊行物であるが、昭和五二年実用新案登録出願公開第一一四〇号公報に第一引用例記載のものと技術上同等と認められる構成が記載されており、その名称が「光通信ケーブル」とされていると認められることによつても、裏付けられるというべきである。

なお、原告は、右公報は本件出願後に刊行されたものであつて、本願発明との関係で公知文献たり得ないものであり、また、同公報記載のものは、線状補強材に設けられた溝と、そこに収容される光フアイバーの相互関係の構成が本願発明と基本的に異なるものである旨主張する。

しかしながら、本件出願後に刊行された技術文献であつても、本件出願当時の技術水準を判断する資料とすることは許されないものではなく、前掲乙第一号証によれば、同公報記載の光通信ケーブルは、その技術内容からみて、本件出願当時、いわゆるオプチカルストランドがその個々の要素自体フアイバーケーブルの構成、機能を備えていたことを推認する資料たり得るものと認められ、また、原告指摘の構成上の差異は右認定の妨げとなるものではないから、原告の右主張は理由がない。

第一引用例においては、「オプチカルストランド」という用語を使われているが、それは、第一引用例に「ケーブル仕上り品は(中略)多層の「ストランド」から成つているものがよい。」と記載(第二頁右上欄第一一行ないし第一四行)されていることから明らかなように、第一引用例記載のものが多層のもので構成するフアイバーケーブルをケーブル仕上り品とすることを前提としているため、フアイバーケーブルと区別して「オプチカルストランド」と呼称しているにすぎないのである。原告は、第一引用例の右記載からしても、第一引用例記載のものはフアイバーケーブルと同一概念ではないと主張するが、第一引用例の右記載は、多量の光信号を伝送するためには多数のオプチカルストランドを使用することが望ましいという当然の技術的事項を述べたものであることが明らかであつて、一本のオプチカルストランドをフアイバーケーブルとして使用することを否定した趣旨と解することはできない。

したがつて、審決が第一引用例には光伝送用フアイバーケーブルが記載されていると認定したことは誤りといえない。

(二) さらに、原告は、第一引用例には、線状物の長さ方向に沿つて所定のピツチでスパイラル状に形成した溝の構成は記載されていないと主張する。しかし、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、「フイラメントはストランドで据付位置を持つために長さ方向に捩れを有する。」(第二頁右下欄第九行及び第一〇行)、及び「プラスチツクフイラメント4は(中略)幾分長さ方向に捩れるように配置される。」(第二頁右下欄第一九行ないし第三頁左上欄第二行)との記載があることが認められ、この記載から明らかなように、本願発明の線状物に相当するフイラメントは長さ方向に沿つて捩れを有するものとされているところ、右フイラメントは、「多数の突起部分を有し、前記クラツドフアイバは隣接突起部分間のチヤンネルに沿つて配置され」(第二頁左下欄第一〇行ないし第一二行)というのであるから、第一引用例には、所定のピツチでスパイラル状に形成した溝の構成が記載されていると認めることができる。

(三) 次に、原告は、第一引用例記載の技術内容は、光フアイバーをプラスチツクフイラメントの所定位置に正確に位置決めして確実に固定するというものであつて、これは、余裕のある空洞内に弛く光フアイバーを収納することによつてフアイバーケーブルに作用する諸応力が光フアイバーに及ばないようにするとの本願発明の技術的思想とは相反するものであると主張する。しかし、前掲甲第二号証によれば、この点に関する本願明細書の記載は、「本発明のケーブルはフアイバーが空洞中に入れられているためケーブルを曲げた場合、又は引張つた場合でも直接フアイバーに力がかゝりにくいので、フアイバーに外傷を受けにくい利点があり」(前記出願公告公報第三欄第一七行ないし第四欄第一行)とあるにすぎないところ、右記載は、フアイバーケーブルに働く外力はフアイバーケーブルの対抗力によつて弱められ、空洞内に収納されている光フアイバーには間接的に働くとの作用効果を開示しているにとどまると解するほかはない。また、前掲甲第二号証によれば、本件願書添付の前記第2図あるいは第3図からも、本願発明が原告主張のような技術的思想のものであると認めることはできない。したがつて、原告が主張する、余裕のある空洞内に弛く光フアイバーを収納することによつてフアイバーケーブルに作用する諸応力が光フアイバーに及ばないようにするとの技術的思想は、その根拠を本願明細書のどこにも求めることができないものであるから、明細書の記載に基づかない原告の前記主張は、失当といわなければならない。

さらに、原告は、第一引用例記載のものが奏する作用効果が、本願発明が奏する作用効果と異なる旨主張するが、第一引用例記載のものが、原告主張の点において、本願発明と構成を同じくすると認めるべきことは前述のとおりであるから、両者の間に作用効果上の差異があると認めることはできない。ただし、原告が、第一引用例記載のもののプラスチツクフイラメントとプラスチツクシースのいずれもが光フアイバーを保護する役割を果たしていないと主張する点については、審決は、前記のように、相違点<1>についての判断において、伝送路を支持する線状物の溝を第二引用例に記載されているように伝送路を収納する構造とすることによつて、伝送路の外圧からの保護効果が得られる旨述べているのであるから、原告の右主張も当たらないといわざるを得ない。

(四) したがつて、本願発明と第一引用例記載のものとの一致点に関する審決の認定、判断に誤りはない。

3 相違点<1>の判断について

原告は、審決が、相違点<1>について判断するに当たり、第二引用例及び第三引用例記載の技術内容を誤認していると主張する。

(一) 原告は、第二引用例は電話ケーブルを対象とし、四本の導電線を正確に位置決めして固定したものであるから、余裕のある空洞内に光フアイバーを弛く収納するという本件発明の技術的思想を示唆するものはないと主張する。

しかし、本願明細書には余裕のある空洞内に光フアイバーを弛く収納するとの技術的思想が記載されていると認められないことは前記のとおりである。そして、第二引用例記載の発明が対象とする電話ケーブルは、信号伝送の手段として、本願発明の技術分野に近接性を有するものであるところ、成立に争いない甲第四号証によれば、第二引用例には、信号伝送路を支持する構成として、線状物の外周に信号伝送路を挿入し得る開口部を有し、かつ、右信号伝送路を収納する空洞を、線状物の長さ方向に沿つて所定のピツチでスパイラル状に形成し、右空洞の断面形状を前記開口部の幅と等しい幅を有する溝状としたものが記載されていると認められる。この第二引用例記載の構成は、光フアイバーに採用することに何らの障害も認められないものであるから、第二引用例記載の信号伝送路の支持構造を、第一引用例記載の光フアイバーの支持構造に適用することは、当業者が容易に想到し得る程度のことと認めることができる。

したがつて、第二引用例記載の技術内容についての審決の判断に誤りはない。

(二) 原告は、第三引用例には、フアイバーケーブルを許容限度以上に曲がらないような構造とする必要があるとの事項が記載されているのみであつて、これは、フアイバーケーブルに作用する諸応力が光フアイバーに及ばない構造とすることによつて光フアイバーの損傷を防止しようとする本願発明の技術的思想とは無縁のものであると主張する。

しかし、成立に争いない甲第五号証によれば、第三引用例には、原告が指摘する事項のみならず、光通信ケーブル設計上の諸問題のうち、ガラス繊維の機械的強度について、「ガラスというぜい性材料で微細径繊維であるため、そのままでは集合してケーブル化すること、さらには布設、接続、配線等の作業は極めて困難である。」と記載(第七頁第二三行ないし第二五行)され、ガラス繊維の集合、外装について「ケーブルに加えられる曲げによつてガラス繊維が折損しないようにする必要があり、局部的に大きな張力、圧力がかからない構造にする。また製造、布設時にガラス繊維が必要以上に変形しない構造をとる事が望ましい。(中略)外装はケーブル本体の保護と同時に個々のガラス繊維を保護することを考慮しなければならない。」と記載(第七頁第三七行ないし第八頁第六行)されていることが認められる。

したがつて、第一引用例記載の技術内容についての審決の判断に誤りはない。そして、前記のように、当業者が、第二引用例記載の信号伝送路の支持構造を第一引用例記載の光フアイバーの支持構造に適用することを容易に想到し得るのは、このような第三引用例記載の知見に立脚しているからであるというべきである。

(三) そうすると、相違点<1>について、第二引用例記載のものの構造を第一引用例記載のものに適用することは容易に想到し得ることとした審決の判断に、誤りは認められない。

4 以上のとおりであるから、本願発明は第一引用例、第二引用例及び第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

線状物の外周に、光伝送用フアイバーを挿入し得る開口部を有し、かつ、該光伝送用フアイバーを収納する空洞を、線状物の長さ方向に沿つて所定のピツチでスパイラル状に形成し、該空洞の断面形状を前記開口部の幅と等しいか又はそれより大きい幅を有する溝状とすると共に、該空洞の全断面積と前記線状物の断面積との比を1:1.5よりも大ならざるように構成したことを特徴とする光伝送用フアイバーケーブル

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